理事長の挨拶

田中 則夫

 2014年5月17日、東北大学において開催された世界法学会の役員会で理事長に選出され、3年間世界法学会の運営に携わることになりました。

 前期の理事長を務められた位田隆一先生の下での最初の世界法学会は、2012年5月に「災害と世界法」を統一テ-マとして開催され、「自然災害」および「原子力災害」に対して世界法の果たし得る役割が多面的に分析されました。そうした統一テ-マが設定されたきっかけが、2011年3月11日の東日本大震災と福島原発事故の経験にあったことはいうまでもありません。この機会に、改めて、東日本大震災と福島原発事故の犠牲になられた多くのみなさまにお悔やみを申し上げますとともに、被災されて今なお元の生活に戻ることができずご苦労を重ねておられるみなさまに一日も早く安穏な生活が戻りますよう、心から念じ申し上げます。

 世界法学会は、1965年に発足した世界法研究会の活動を基盤とし、1976年に設立されました。日本において、世界法の研究が一段と活発になる背景には、第二次世界大戦末期における核兵器の出現とその使用がありました。将来、人類の破滅を免れるためには、国家主権のあり方を見直し、世界政府または世界連邦を目指すことが重要だとする運動が高揚し、その理論的な基礎を検討するために、世界法の研究会が組織され、さらにそれが発展し、現在の世界法学会へと繋がってきたわけです。現在、国際社会における実定法規である国際法とは別に世界法と呼ばれる一群の法規範が確立しているわけではありません。しかし、国際法(international law)の視点に加え、世界法(world lawまたはtransnational law)の視点からの分析・研究が意義をもち得る諸課題も少なくありません。

 私たちが生きる21世紀において、核兵器の廃絶を含む国際平和の確立・維持の課題、地球温暖化の防止を含む地球環境の保護・保全の課題、貧困の撲滅を含む社会の持続可能な発展を実現する課題、少数者・難民の保護を含む国際人権保障体制整備の課題など、特定の国の努力や思惑だけでは解決不可能であって、その解決を展望するためには、世界のすべての国、民族、団体、個人の協力・協働が不可欠である諸課題は、数限りなく存在するようになっています。これらの諸課題の解決のためには、法律学に加え人文、社会、自然の諸科学の成果を結集する必要があることはもちろんですが、世界法の研究の発展がその一助となることはまちがいありません。

 世界法学会は、「災害」が市民生活と国際社会に突きつける問題の分析はもとより、上記のようなグローバルなレベルでの検討がより強く求められる問題に至るまで、幅広いテ-マを取り上げ、研究を積み重ねています。これからも引き続き、世界法の研究を通して世界の平和に貢献する法の実現を追求するとともに、世界法の創造的な探求のために努力したいと思います。学会内外のみなさまのご理解とご支援をお願いいたします。